日本が生んだ偉大な哲学者西田幾多郎は、幼少の頃から能登の浜辺で飽かず海を眺めて時を忘れるほどだった。寄せては返す波は刻々と変化し、同時に果てしない大海原は、どこか永遠を告げているからだ。その体験が西田哲学生成の萌芽となったと言う。
江花道子さんの二・三年前までの作品を眺めていると、ヴェネツィアの海が作品の原動力になっていたのではないかと思う。私の心を感動させるのは、ヴェネツィアの海から響いて来る永遠の調べであった。西田氏の永遠の時の調べとは違って、幻想的に海に浮かぶサン・ジョルジョ・マジョーレ教会とか、アドリア海に静かに沈む夕日とが、天上的な調べをかなでいるように思われた。
こんどの今回の展覧会に出品される絵画は少し趣をことにしているようだ。例えば今回の聖母子像は、聖母も幼子イエスもとても繊細なタッチで優しく描かれていて、玄妙な神の愛の調べを奏でているように思われる。それは、今までにない静けさと優しさを感じさせてくれる。
さて、今年の展覧会で実物の作品を見て、どんな感動を与えてくれるだろうか。大きな期待で私の心は膨らむ。 |